※ネタバレ注意
「切なくてキレイなBL(ボーイズラブ)」って感想です。
テーマは結構重いです。
主人公・舘 周子(たて ちかこ)の弟・真哉(まさや)は、6年前の5年生の遠足で行方不明。
遺体もないため、ある日ひょっこり帰ってくるんじゃないかと待ち続ける家族。
重松清さんや湊かなえさんが書いたらすっごい重い話になるんじゃ?っていう設定ですが、本作は決して重くなく、淡々と進んでいきます。
ずっと周子(ちかこ)の目線で、周子(ちかこ)の一人称で物語は進んでいくんですが、「主人公は周子(ちかこ)」と言ってしまっていいのかわからず…。
主人公は周子(ちかこ)の弟の真哉(まさや)なんじゃないか、という気もするし。
真哉(まさや)本人は行方不明のため、回想でしか出てこないんですけど、ずっと真哉真哉(まさや)してるから真哉(まさや)が主人公かな?って思うくらい。
お話しは舘(たて)家の隣家である比和家の長女・すみれさんが亡くなったということから始まり、
それきっかけ?で比和家の長男・文彦(ふみひこ)と周子(ちかこ)が久々に会話をかわし、
周子(ちかこ)の職場(百貨店の紳士服売り場)に文彦(ふみひこ)のお客が次々現れ…って流れで、
読み進めていくと「あ、この人はこの人とこんな関係だったのかー」ってわかっていくという。
点と点がつながっていく感じ。
まとめると、
・真哉(まさや)と文彦(ふみひこ)は好き合っていた。
・真哉(まさや)は生きていれば和(たかし)と同じくらいの年齢。
・和(たかし)は家庭教師だった文彦(ふみひこ)に一目惚れ。
・和(たかし)と文彦(ふみひこ)は付き合っていた(多分)。
・文彦(ふみひこ)は和(たかし)に真哉(まさや)を重ねてた。
・文彦(ふみひこ)には本命の恋人・向坂(さきさか)(男)がいて、向坂(さきさか)が親のすすめる相手と結婚するってことで一度は別れたが、ヨリを戻して同棲中。
・向坂(さきさか)は文彦(ふみひこ)の恋人だった女性の兄。
・文彦(ふみひこ)、和(たかし)、向坂(さきさか)の三角関係だか何関係だかのいざこざに周子(ちかこ)が時々巻き込まれ、周子(ちかこ)視点でその関係をみていく。
こんな感じ。
本のタイトルの「ユーモレスク」は、作中、時々比和家から聞こえてくるピアノで、真哉(まさや)が好きだった曲。
隣家からこの曲が聞こえてくると、駆け出して行ったくらい好きだった曲。
「どんな曲なんだろ」と思ってyoutubeで検索して聴いてみたら、絶対皆聞いたことあるって曲でした。
「曲名は知らないけど聞いたことはある」っていうクラシックの典型。
給食時間や、デパートやホテルのBGMで流れてそうな曲です。
作中では、比和家から聞こえてくるピアノのユーモレスクは、すみれさんが弾いているものだと周子(ちかこ)は思っていたのだけど、実際はユーモレスクを弾いていたのは文彦(ふみひこ)の方。
この曲しか弾けなくて、練習しているといつも真哉(まさや)が来た、というから、真哉(まさや)は文彦(ふみひこ)が弾いていたことを知っていた。
真哉(まさや)はユーモレスクが好きだったんじゃなくて、「文彦(ふみひこ)が弾く曲」が好きだったんだと思う。
もし「猫ふんじゃった」とかでも、文彦(ふみひこ)が弾く曲なら「いい曲だねぇ」って言いながら駆け出して行ったはず。
真哉(まさや)の色が強いんですが、私は和(たかし)に全部もってかれました。和(たかし)の印象が強い。
長身細身の美形の男子高校生(女装癖あり)として描かれてるのですが、よく躾されたいい子なんですよ。
如才無いというか。
周子(ちかこ)に対する、「ぼくも、一応男なんだけど、」(『ユーモレスク』p108、2行目)とか、文彦(ふみひこ)に対する「真哉の代わりだってこと、……わかってたんだ、」(同書p151、8行目)とか、突然男を出してきたり、切なかったり…。
長野まゆみさんの小説は、美しくて不思議な少年がよく出てきて、一時期長野作品にはまっていたこともあるんですが、今回の小説読んだことで熱が再燃した気がする~
また別作品も読んでみちゃう気がする~
ちなみに、本表紙のトランプの絵柄の四角は、真哉(まさや)が行方不明になった遠足の日に身に着けていたスカーフです。
最初は「何の柄だこれ?」と思ってたのですが、本文中に「弟のものである海老茶とグレイの市松とトランプの変わり柄になったスカーフ」(同書p14、4~5行目)とあったので、「あ、真哉(まさや)のスカーフか」って気づいた次第で。