『ミステリと言う勿れ』の狩集家遺産相続殺人事件、通称「広島編」を読んだ最初の感想は、「その殺人はなんの意味もなくない???」でした。
これ殺人の意味ある?殺人のメリットほぼないからやめたほうがいいよ、としかならなかった…。
私がモヤっとしてる部分をちょっと語らせてほしい。
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ミステリと言う勿れ(みすてりというなかれ) 広島編/田村 由美/2巻~4巻収録
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事件の概要
狩集家当主が亡くなり、遺言書が開示された。当主の実子4名はすでに死亡しているため、4名いる孫の中から1人、相続人を選ぶことに。
孫たちには1人ひとつずつ蔵と、「あるべきものをあるべき所へ過不足なくせよ」というお題が与えられた。
狩集家の遺産相続はいつもお題が出て争う形になり、必ず何人も死人が出ているという。
相続対象者の孫4名のうちの1人である狩集 汐路から、蔵の謎解きとボディガードを頼まれた久能 整は事件に巻き込まれる。
相続対象者4名と、与えられた蔵は以下の通り。
・狩集 理紀之助…臨床検査技師。明総の蔵を与えられる。蔵にあったのは鎧、屏風、錆びた日本刀。
・波々壁 新音…不動産の営業。忠敬の蔵を与えられる。蔵にあったのは焼き物。
・赤峰 ゆら…専業主婦。温恭の蔵を与えられる。蔵にあったのは座敷牢。
・狩集 汐路…高校生。問難の蔵を与えられる。蔵にあったのは9体の日本人形。
感想と考察 ※ネタバレ注意
しょっぱなからネタバレすると、今回の遺産相続事件が起こる狩集家は、天パ(天然パーマ)を殺す一族なんです。銀魂の銀さん涙目。
なぜ天パを殺すのかっていう理由もちゃんと描かれはするんだけど、「え、そんなわけわからん理由で殺すの?」って感想しかなくて、この記事書いてる今もモヤモヤしてる。
ネタバレを一文でまとめすぎて意味わからなすぎなので、順を追って説明するね。
作中、今の狩集家の成り立ちの話が語られるのだけど、それが大体以下のような話。
昔々、幕末の時代、広島に3匹の鬼がいた。
鬼のボスは明るい色の長い巻毛に異人のような白い肌をしていて、あとの2匹はボスの姿に心酔する忠実な下僕。
彼らは人のフリをして人間社会にまぎれて暮らしていて、ある時狩田という麻農家に雇われる。
ある夜、鬼たちは狩田の主人や使用人を皆殺しにして、狩田の若妻を手に入れ、家を乗っ取った。
しかし、懸念がひとつ。主人夫婦の小さなひとり娘が、使用人によって逃がされていたこと。どんなに捜しても少女を見つけることはできなかった。
殺した人たちは丁寧にバラバラにして敷地内に埋め、その上に4つの蔵を建てた。
事業を拡大し、大地主となり成功者になった鬼だが、逃がした少女が警察とともに戻ってくるのではないか、復讐の鬼となって寝首を搔きにくるのではないかと怯えた。
怯えに怯え、ありとあらゆる魔除けをし、自分と同じような髪色のわが子を斬り殺した。
そして3匹は、「自分と似たような容姿の子が生まれたら、もしくは年を経てそう変化したなら殺さなければならない」という掟をつくった。
狩田の家を乗っ取ったことがバレないように、鬼の容姿(明るい巻毛、色白)に似た子は殺す、という掟は今も生きている。
以上の話が、今の狩集家のなりたちとして描かれてる。
作中の劇の話として出てくるので、乗っ取った家の名前が「狩田」になってるけど、狩集によみかえていただいて。
遺産相続の対象者の4名の孫の実親たちは、4名いっしょに事故死してるんだけど、これが実は「天パは殺す」って掟によって殺されていた、ということが整によって暴かれるわけ。
えええ???ってなりません?そんなしょーもない理由で殺します???って。私はなった。
そもそもよ、天パは殺すって掟がなぜあるのかというと、「狩集家を乗っ取った」ということがバレないようにってされてる。一家皆殺しにしたときに娘だけは取り逃がしてしまったから、警察にチクられるんじゃないか、はたまた復讐しにきてしまうんじゃないかという怯えがあって、鬼の容姿に似てしまった子は殺すって掟ができたって。
この掟ができた理由も???(ハテナがいっぱい)ですけど。
だってさ、仮に娘が復讐にくるとしてだよ?犯人自体の容姿は多少は重要だったとして、犯人の子どもの容姿は関係なくない?ないでしょ。
家族皆殺しにされた娘にとってみたら、殺されたはずの父親になりかわってるヤツがいたら、もうそれが犯人でしょ。子の容姿なんてなんの関係もない。
百歩譲って子の容姿が関係あったとして、「今の狩集家」を脅かす逃がしてしまった娘はもういないわけだから、天パが生まれても殺す必要これっぽっちもないのよ。だから、汐路たちの親4名が殺された意味がまったくない。
しかも、殺す役割を担う「暗殺部隊」の人たちはそのことをわかってるわけ。「もし今、正当な血筋の人が訴えて出たとしてもどうにもならない」って。
逃がしてしまった娘は現代では確実に生きてないけど、その子孫が「私たちが正当な血筋なんだ!こいつらは一家皆殺しにして家を乗っ取ったんだ!」って訴えても、血縁証明する手立てもないからどうにもならないんだって。
皆殺しにして家を乗っ取ったことが事実だったとしても、犯人ももう生きてないから、子孫である今の狩集家が罪を背負うこともありえないって。
ならマジで天パ殺す意味ない。
現代日本において殺人って罪めっちゃ重いから、家を守ること考えたらリスク高すぎ。ハイリスクノーリターン。そんな意味ない掟は即刻廃止にすべき。
「昔から代々行われてきた大事な掟なんだ!」とかって言われても、鬼たちが狩集家を乗っ取ったのは明治初期ってなってるから、せいぜい150年前よ?鬼を初代と数えて、汐路たちの祖父で4代目か5代目くらいよ。
「昔から代々」って言うほど昔じゃないじゃん。仮に1000年前とかすごい昔から行われてたことだったとしても、「現代にそぐわないからやめましょう」で終わる話なわけよ。
例えば今のお寺って、仏像のとこにあるろうそくの火が、本物の火じゃなくてLEDになってるじゃん?卒塔婆とかお札の文字も手書きじゃなくてプリンタ印刷のとこあるし、時代とともに手段はかわっていくのに、なぜ今でも天パを殺してるの?意味もないのに??
…っと思ってしまって、すごくもやもやが残っちゃった…。
なんて言うか、「掟だから天パの人殺してます」っていう真相をみせられたとき、エドガー・アラン・ポーの『モルグ街の殺人』を読んだときの気持ち思い出した。
突然ネタバレするけどごめんね。『モルグ街の殺人』って、密室殺人が起きて、「獣にやられたような惨い遺体だ…」っていう惨殺体が発見されるの。んで、犯人がほんとに獣だったの。どっかで飼育されていたゴリラだか猿だかが脱走して人殺しちゃったっていう事件。
「そのまんまかい!」って思わず声でたよね。
金田一耕助の『犬神家の一族』とか『八つ墓村』とか、あと金田一少年の『飛騨からくり屋敷殺人事件』とかって、遺産相続とか祟りを利用して殺人事件がおきて、殺人を犯す人物の動機というか背景というか、ちゃんとという言い方も変だけど、殺す理由がちゃんとあるじゃない?読者である私たちに「それは殺意わいちゃうね…」って思わせる理由が。
それが今回の『狩集家遺産相続殺人事件』にはなかったのよ。
「”天パは殺す”という掟があるから殺しました。」
…………。
そのまんまかい!っていう。そんな気持ち。
犯人は、被害者たちに対して恨みがあるわけでもないし、殺したことに対して罪悪感もなし。
「天パだから殺さないといけない」ただそれだけで殺した。
どう育てたら天パを殺す対象としてみる人間ができあがるんだろ。こんな価値観持ってるやつが弁護士になるとか、なんて恐ろしい話なんでしょう。司法試験一生落ち続けろ。
作中、何度か語られる話に「子ども(の心)は乾く前のセメントみたいなものだから、落としたものの形がそのまま跡になって残る」ってのがある。
犯人の心のセメントは、穴を埋められずに固まってしまったんだなきっと。セメントが固まる前に表面をならしたり、穴を多少なりとも埋めることができればよかったのに、倫理観とか正義が抜け落ちたまま固まってしまったんだ。
後悔も反省もしてない犯人だったから、ほんとに胸糞悪い野郎だった。
あとどうでもいいことだけど、劇の中で”鬼”とされてる狩集家を乗っ取ったご先祖、日本人と西洋人のハーフだったんだろうな。外見の特徴(白い肌、明るい色の巻毛)が西洋人だし、100%西洋人かなと最初は思ったけど、魔除けのやり方が日本式(お札、盛り塩、しめ縄など)だったから、西洋人の外見で日本で生まれ育った人(=日本人と西洋人のハーフ)なんだろなって思った。
日本でのハーフは、オランダ人の種子島渡来(1543年)以降、少ないながらもいたみたいだから幕末にもいたでしょう。この頃の有名なハーフはシーボルトの娘・楠本イネ(日本人女性初の産科医)など。
久能整すごいと思ったところ
モヤモヤ点を脱線しながら語ったんですが、すごいな、面白いなと思ったところももちろんありまして。ええ。
まず、孫たち4名に与えられた蔵の名前「明総の蔵、忠敬の蔵、温恭の蔵、問難の蔵」を聞いて、整が「足りない」ってつぶやくシーン。
あれ、謎解きの場面で語られるんだけど、『論語』の九思なんだって。
【九思とは?】 (「論語‐季氏」の「君子有
二九思
一。視思
レ明、聴思
レ聰、色思
レ温、貌思
レ恭、言思
レ忠、事思
レ敬、疑思
レ問、忿思
レ難、見
レ得思
レ義」による語)
君子が心にかける九つの事柄。明・聰・温・恭・忠・敬・問・難・義。
コトバンクより引用
【九思の意味】 君子である者が思い心がけるべき九つのこと。物を見るときは細かいところまでしっかり見る、話を聞くときは正確に聞く、表情は穏やかにする、身ぶりはつつましくする、物をいうときには真心をこめる、仕事は慎重にする、疑問を感じたら質問する、怒るときはその結果生じる難事・難題を考える、利益についてはそれが正当かどうか考えて善悪を吟味する、の九つのこと。
goo辞書より引用
発表された蔵の名前を聞いて九思の明・聰・温・恭・忠・敬・問・難・義の名前がつけられてることに気づいて、さらに「義」が足りないことにすぐ気づくのすごくない?教養とか知識量すごい。
あと、伏線がいっぱいあっておもしろかった。子どもをスパイにしちゃいけないとか、魔除けとして玄関にあったアメジストドームとか、整が初日にみた悪夢とか。
一度全部読んで、2回目3回目読み返すと「あ、ここ、あのシーンの伏線だったんだ」て気づくのが楽しかった。
▶広島編は2巻~4巻収録。試し読みはコチラ
ミステリと言う勿れ広島編の犯人ヤバイ奴すぎない?【ネタバレ感想】
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↑歴史上初の推理小説。犯人(?)にビビる↑
↑小学生の時に読んで首狩り武者がめっちゃ怖かった。征丸がかわいそうすぎ↑
コメント
こんばんは。はじめまして。私も同じ事を疑問に思っていました。しかし真の狩集家の唯一の生存者である少女は何故復讐に来なかったのでしょうか?かなり幸せな人生を送れたためにその必要がなかったのか?もしかするとショックで記憶喪失になっていたのか?ちなみに彼女の現在の子孫はラストに登場した女性だけでなく実は有力者や権力者もいたら面白そうです
>あかさたなさん
はじめまして。
唯一の生存者の少女がなぜ復讐にこなかったのか…たしかに!
家族や一族を殺されたキャラクターは大体復讐者になりますもんね。進撃のエレンしかり、H×Hのクラピカしかり。
少女が何歳だったのかは描かれてないですが、結構小さい子(どんなに大きくみても6歳くらい)なので、「ショックで記憶喪失」に一票いれたいです。
幸せな人生を送ったと信じたい…。
「真の狩集家の子孫に有力者や権力者がいたら」のお話、めちゃくちゃおもしろいですね!現在の偽の狩集家よりも上のポジションにいて、知らず知らずのうちに「ざまぁ」状態になってたら…など、妄想がはかどりますね!
こんにちは。ありがとうございます
狩集家の天然パーマの件ですが表向きは鬼の容姿に似ているからと言っていますが実は違う理由が他にもあるのでは?と思いました。例えば実力や人柄の優劣等です
お久しぶりです。
あれからじっくり考察してみました。もしかすると最初の頃は『鬼の集い』にあったように本物の狩集家の唯一の生存者である少女が復讐に来るかもしれないと思っていたのかもしれませんが時代が進むに連れて初代の鬼に似た容姿の子孫が生まれて来るたびに自分達が家を乗っ取った一族の子孫だと思い知らされて来たためにルールを継続していたのかな?と思いました
>あかさたなさん
お久しぶりです。返信めちゃめちゃ遅くなってすみません。
「初代の鬼に似た容姿の子孫が生まれて来るたびに自分達が家を乗っ取った一族の子孫だと思い知らされて来たためにルールを継続していたのかな?と思いました」
なるほど。「家を乗っ取った一族」=「人殺しの犯罪者集団」であることを思い知らされるから天パは殺すって、罪の意識にさいなまれながら罪を重ね続ける図になっちゃって悲しいおとぎ話みたいですね。。。
だってさ、仮に娘が復讐にくるとしてだよ?犯人自体の容姿は多少は重要だったとして、犯人の子どもの容姿は関係なくない?ないでしょ。
家族皆殺しにされた娘にとってみたら、殺されたはずの父親になりかわってるヤツがいたら、もうそれが犯人でしょ。子の容姿なんてなんの関係もない
↓
殺されたはずの父親になり変わっているヤツがいたらそれが犯人ですよね…。
それに、普通は父が殺されたら警察と一緒に家に行くだろう?と思うのに、行かなかった理由もわからない。。
私は自分の中で無理やり、逃げた子供は実の父親が殺されたことを知らずに、ただ危ないから逃げなさいと言われた。自分の家がどこかもわからない年齢だった。
また、まだ小さくて、父親の顔がはっきりわからない年齢だった。
でも、もし警察を連れてきたときに、父親は黒髪に変装したりしてごまかせても、そこにいた子供が外人だったら、さすがに警察にあやしまれてしまうと言う理由で殺していたのだと思うことにしました。。
無理やりですが笑
>ゆさん
返信がとても遅くなり、失礼いたしました。
そうですね、逃げた娘は、何が起きてるのかもわからないくらいに小さかったんでしょうね。
突然親のいない生活になっても、それがイコール父親が殺されたとはわからなかったかもしれませんね。